「こんなこと、初めて話しました」相談の後、そう言ってもらえる瞬間が、いちばん好きだと慎吾さんは言った。誰かに打ち明けられないまま、ずっと1人で抱えてきたもの。それをようやく言葉にできた、その場所に自分がいられた——その事実が、たまらなく嬉しいのだという。ゲイであることを長年周りに隠しながら生きてきた慎吾さんが、今はゲイのFPとして「NEW DOOR」というサービスを運営している。お金の相談というよりも、人生の相談。将来への漠然とした不安を、本音で話せる場所をつくりたかった、と話してくれた。今日は、そこに至るまでの道のりを聞かせてもらった。幼馴染みの告白が、すべての始まりだった「気づいたのは、18か19のころだと思います」大学生になるまで、慎吾さんはずっと女性と交際してきた。男性に「かっこいいな」と思うことはあっても、それが恋愛感情とはつながらなかった。転機は、4歳下の幼馴染みからの告白だった。「そのとき彼女と別れたばかりで。嫌な気分がしなかったというか、ちょっとどんな感じなんだろうって、半分好奇心もあって付き合ってみたんです。そうしたら、それまで誰かを好きになった感覚とは全然違うくらい、すごく好きになっていて」「あ、これは恋愛だ」と気づいた瞬間だったという。——それ、初耳でした。めっちゃドラマじゃないですか。「あの人がいなかったら、俺はゲイになってなかった気がする。だからある日突然気づいたというより、関係の中でだんだんと輪郭が見えてきた、みたいな感覚で」「言うリスク」を、ずっと感じていた自分の気持ちに気づいてからも、慎吾さんはそれを周囲に打ち明けることはしなかった。「言ったら受け入れられないんじゃないか、距離を置かれるんじゃないか、噂になるんじゃないかって、ずっと思っていて。しかも俺、女の子好きみたいなキャラだったから、未だにそう思ってる友達もいると思う」一般的な社会の中ではカミングアウトせず、ゲイのコミュニティやアプリで出会った人たちの中だけで、自分の話をする。そんな二重生活のような日々が続いた。「しんどいというより、言うことのリスクとデメリットを考えたら、言わない方が賢いよね、みたいな感覚だったかな。ただ、本音で話せる相手がいないという状況は、ずっとありました」——「言うメリットがない」って表現する人、多いんですよね。言わないのが合理的になってしまう、みたいな。「そう。だから特別しんどかったわけじゃないんだけど、将来のことを誰とも話せないまま、時間だけが過ぎていく感覚はあって」「自分にしかできないこと」を探して20代中盤、慎吾さんはWeb制作・マーケティング会社を立ち上げ、メンバーが40名規模まで成長した。借金も返し、会社も安定してきたころ、ふと立ち止まった。「創業当時の、あの燃えている感じがなくなってきていて。新卒のメンバーに『この会社、どこに向かっているんですか?』って聞かれて、確かに、と思って」同時期、慎吾さんは舞台俳優としても活動を続けていた。稼げるわけじゃない、会社も忙しい。それでも続けていた理由に、ヒントがあった。「自分より演技がうまい人は、いくらでもいる。でも、自分の声や顔や体は、世界にひとつしかない。自分と全く同じ演技をする人は、世界に1人もいないじゃないですか。そのオンリーワンな表現をすることへのやりがいが、ずっとあったんだと思う」Webの仕事は得意だった。やりがいもあった。でも、「自分じゃなくてもできる」という感覚は消えなかった。「人生1回しかない中で、自分にしかできないことって何だろう、と考え始めたんです」——その問いが積み重なって、今のサービスにつながっているんですよね。「そう。ぐるっと回って、そこにたどり着いた感じで」FPに相談して、「本音が言えない」と気づいたそのころ、慎吾さんは将来への漠然とした不安を抱えていた。周りの友人は次々と結婚し、親からも「そろそろ結婚しないの?」と言われる。でも自分は、女性と結婚するつもりがない。20年後、30年後、どうなっているんだろう。「そういう相談を、カミングアウトせずにストレートの友人にしてみたら、『人生の整理をしてくれる人がいるよ』って紹介されて。それがFPの方で」でも、その相談はうまくいかなかった。「すごく丁寧に話を聞いてくれる、いい人だったんです。ただ、会話がどうしてもストレート前提になっていて。『奥さんはいるんですか?』とか、そういう話が多くて。自分もカミングアウトするつもりがなかったから、ずっとお茶を濁す答えしか返せなかった。本音で相談できないな、って」——相手が悪いわけじゃないのに、どうしても話せない感じ、すごくわかります。「向こうは全力で話を聞いてくれているのに、こっちは肝心なことを言えないまま終わる。それがずっともやもやしていて」その体験が、後のすべての原点になった。SNSでロールモデルを探しに行った「本音で話せなかった」という経験の後、慎吾さんは自分よりも20~30年上の世代のゲイの人たちに、SNSで直接声をかけ、話を聞きに行くという行動に出た。——それ、すごいと思う。なかなかできることじゃないですよね。「なんか、見たかったんですよね。ゲイとして、どんな40代、50代、60代があり得るのかを」1人で生きていくと決めて頑張っている人、パートナーと歩んでいる人、男性同士で子供を育てている人——いろんな姿があった。「将来の漠然とした不安が、かなり消えていった感覚がありました。あ、こんな生き方もあるんだって。そのとき同時に思ったのが、あのとき紹介されたFPの人が、もし自分と同じ立場の人だったら、本音で全部話せたのに、って」「仕事をしたいから、カミングアウトする」という順番だったのが、慎吾さんらしい。自分のためより先に、誰かのために動いている。——それって、目の前の誰かを先に見ているってことですよね。なかなかできることじゃないと思います。「そうかも。ゲイのFPとして、1人で抱えている人の漠然とした不安を解決できる仕事が、自分にしかできないことなんじゃないかって。そう思ったら、カミングアウトするしかなかったですね」「こんなこと、初めて話しました」NEW DOORでの相談は、お金の話だけにとどまらない。将来への不安、パートナーのこと、ひとりで老いていくことへの怖さ——そういった話を、本音でできる場所として機能している。相談者の中で特に印象に残っているのは、60代手前の男性だという。「1人で生きていくと決めていて、愛犬がすごく好きで。その方、すごく幸せそうに生きていたんです。パートナーがいないと寂しい人生になるのかな、って正直思っていたんですけど、全然そんなことなかった。自分の人生を、ちゃんと楽しんでいた」「こういう生き方もあるんだって、自分の視野が広がりましたし、ロールモデルを探しに行ったあの頃の自分と、ちょっと重なる気もして。印象に残っていますね」——そういう出会いって、相談者さんにとっても、慎吾さんにとっても、財産になりますよね。「本当に。最近よく言ってもらえるのが、『こんなこと、初めて話しました』っていう言葉で。本当に会えてよかったって言ってもらえることも。それが、めちゃくちゃ嬉しいですね。やっていてよかったなと思う瞬間です」知識は、選択肢になるFPとして見ていると、早めに動いていれば防げたはずのことも目にする。「将来の不安をぼんやり持ったまま、時間だけ経っちゃいましたみたいな方は結構多いです。資産形成や保険のこととか、早く知っていれば、もっと早くから準備できて未来の選択肢も増えたのにって後悔している方が何人もいました。」大きな病気になってから初めて、備えていなかったことに気づく方々も見てきた。「資産形成をするか、保険に入るかどうかより、まず自分にとってどのような選択肢があるのかを“知る”ことが大事だと思っていて。選択肢を知った上でやらないと決めるのと、知らないままでいるのは、全然違う。知らないと、選ぶことすらできないから」——知識って、自由になるための道具ですよね。選べるようになる、っていう。「そうなんですよ。だから、お金の相談というより、一緒に整理する、みたいなイメージで話しています。何が不安で、どういう未来を生きたいのかを、一緒に言語化していく感じ」1人1人の幸せが、社会につながっていく最後に、5年後・10年後の話を聞いた。「1人1人が、自分らしく生きられたらいいなって。大きな話に聞こえるかもしれないけど、自分にできることって、目の前の人の話を聞くことだけで。でも、その人が自分の理想の人生を描けるようになっていったら、それが少しずつ社会につながっていくんじゃないかと思っています」——1人の幸せが積み重なって、社会が変わっていく。僕が会社を始めた理由とも、すごく近いなって聞きながら思っていました。「なんか、世界は思ったより優しいのかもしれない、って最近感じるんですよね。カミングアウトを怖がっていた自分は、気にしすぎていたのかもしれない、と思うくらい、周りが受け入れてくれることも多くて。もちろん怖さがゼロになったわけじゃないけど」その言葉は、かつての自分へ届けたかったものでもあるように聞こえた。読んでいるあなたへ、慎吾さんからのメッセージ「人生のこと、お金のこと、本音で話せる場所って、なかなかないと思います。今後どうやって生きていけばいいんだろうとか、カミングアウトしていなくて相談できる人がいない、みたいな人は、お金の相談じゃなくて人生相談みたいな感じでも全然いいので、気軽に連絡してもらえたら嬉しいです」1人で抱えなくていい。そのための扉が、ここにある。NEW DOOR / 佐藤慎吾さんへのご連絡「もっと話を聞いてみたい」「相談してみたい」——そう感じた方は、株式会社LGBTQ Ordinary のフォームからご登録ください。私たちから慎吾さんへおつなぎします。👉 LINEで相談するインスタグラムより、お気軽にどうぞ。Instagram:@shingo_9981取材・文:佐古田陽登(株式会社LGBTQ Ordinary)