「自分じゃなくて、誰か別の人の人生を見ているって感覚がありました」大学を卒業するまで、陽登さんはゲイであることを周りに隠していた。みんなの前では、その場に合わせた「佐古田陽登」を演じていた。誰かに褒められても、それは演じている自分への言葉でしかなく、本当の自分には届かなかった。今は、LGBTQの人々が「ordinary(ふつう)」に生きられる社会をつくることを目指して、株式会社LGBTQ Ordinaryを経営する。コミュニティイベント「Re:Blue」から企業向けのインクルージョン支援まで——その根っこには、かつての自分が生きられなかった「当たり前」を、誰かに手渡したいという願いがある。今日は、そこに至るまでの道のりを聞かせてもらった。誰にも言えないまま、卒業した中学で初めて好きになった人は、同性だった。「ゲイと言われて虐められている姿を見ていたから、言ったらここにいられないと思って。実際そうだったと思う」誰にも言えないまま卒業した。高校では色々な人間を演じた。「木を隠すなら森の中」という感覚で、別人を演じることが当たり前になっていった。嘘の罪悪感が、じわじわと積み重なっていった。将来への絶望があった。一人で生きていくしかない、という確信のようなものも。「30歳で死ぬと決めていました」淡々と語られた言葉に、少し間が空いた。表に出せなかった自分が、映像を通して明治大学法学部に進んだのは「就職に有利だから」という理由だった。特に夢はなかった。でも、学園祭実行委員で映像に出会い、先輩に付いて独学で制作を始めた。「カミングアウトしていない自分にとって、唯一の表現手段でした。言葉に出来なくても、想いは込められる」一人の寂しさ、誰かと繋がりたい願い——言葉にできなかったものを、映像に注いだ。副局長として制作した仲間への贈り映像で、目の前の人が涙を流した。「表に出していなかった自分が、映像を通して誰かの心に触れられた、というのが嬉しくて。映像の道を進もうと決めました」でも当時、まだ誰にも打ち明けていなかった。「佐古田は佐古田だよ」初めてカミングアウトしたのは、大学4年の後輩(親友)だった。横浜コスモワールドで、手を繋いで歩いている男の子2人とすれ違った。「もしかしたら自分にもそういう未来があるのかも、って思った瞬間があって」その後、後輩から電話で「なんか隠していることあるでしょ」と問われ、3時間モジモジした末にカミングアウトした。「そうしたら、『いつも笑ってるのにどこか寂しそうな顔をしていたから』って。『佐古田は佐古田だよ』と言ってくれました」——その言葉で、何かが変わった瞬間だったんですね。「心のつっかえが取れた感覚でした。ゲイという部分は自分には大きなアイデンティティだったけど、その人にとってはひとつの要素でしかなかった。一人の人間として見てくれていた」コロナ禍、オンライン飲みで学園祭の仲間たちに一斉カミングアウト。後日の対面の飲みで、右耳にピアスを開けてもらった。その穴には今、パートナーのしゅんからの誕生日プレゼント——沖縄の青いピアスが入っている。恵まれてる、でも当たり前じゃないパートナーシップを締結した後、学園祭の仲間たちが40人ほど集まってパーティを開いてくれた。「恵まれてるな、って思いました。でも同時に、これは今の社会では当たり前じゃないという事実でもあって」誰かと一緒にいること、自分らしく生きること——本来は当たり前のことが、当事者には当たり前ではない。出会いの中で、誰にも言えずに生きてきた先人たちの声を聞く機会があった。何十年もの間、大切な人を隠したまま生きてきた人。墓場まで持っていくと決めた人。今の自分がいかに恵まれているかを、リアルな人生を通じて知った。「社会を変えるのは時間がかかる。先人たちのおかげで今の自分がある。でも、自分は今見えている人・今生きている人の幸せの選択肢を作りたかった」——先人への感謝と、今の人への責任感、みたいなものかな。「そうかもしれない。どこかで繋がってる気がするんですよね」「カミングアウトという概念をなくしたい」アディーレ未来創造基金に応募し、受賞した。事業計画のヒアリングを通じて「そもそもパートナーができない」「親にカミングアウトしていない」という声が積み重なり、現在のサービス群の輪郭が見えてきた。起業の直接のきっかけは、しゅんとの何気ない会話だった。「カミングアウトってどうやったら増えるんだろうね」という問いから、「幸せが可視化されていないから、みんな諦めている。まず希望を持ってもらうことが大切」という答えにたどり着いた。「原点は、『カミングアウトという概念をなくしたい』ということ。当事者にとって一番大切なのは、社会全体の変化ではなく、自分自身が幸せになれるかどうかだと思っていて」コミュニティイベント「Re:Blue」、マッチングプログラム「LiteBlue」、企業向けのインクルージョン支援——今のサービスはすべて、「一人ひとりの幸せから、当たり前の幸せを創造する」という理念の上に成り立っている。——かつての自分に向けて作っているものでもある、という気がします。「30歳で死ぬと決めていた自分が、今ここにいる。それだけで、続ける意味があると思っています」読んでいるあなたへ、陽登さんからのメッセージ「今、しんどかったり、将来が見えなかったりしている人に伝えたいのは、幸せは叶うということ。自分も、叶ってしまった気がしています。そこに至るまでの道を一緒に見つけていくために、LGBTQ Ordinaryを作りました。当事者の方も、企業の方も、つながってもらえたら嬉しいです」かつて「30歳で終わる」と決めていた人生が、今はこんなに続いている。その先に、誰かの「当たり前」をつくりたいと、陽登さんは今日も動いている。株式会社LGBTQ Ordinary についてLGBTQの人々が「ordinary(ふつう)」に生きられる社会をつくることを目指して、コミュニティイベント「Re:Blue」、同性カップルのウェディングをサポートする「Lu-Lu Wedding」、企業向けインクルージョン支援など、複数のサービスを展開。公式サイト:lgbtqordinary.com取材・文:O-DINARY 編集部