「同性パートナーにも福利厚生を適用したいけれど、何から手をつければいいのか分からない」人事・DEI担当者の方から、弊社にこのようなご相談が増えています。慶弔休暇、結婚祝い金、家族手当、転勤の帯同支援。これらを同性パートナーにも広げたい気持ちはあっても、「証明はどうする」「就業規則のどこを直す」「他社はどこまでやっているのか」と、入り口で立ち止まってしまう。本記事では、公的・公開情報で確認できる範囲の事例と、制度設計の論点を、出典付きで整理します。1. なぜいま検討する企業が増えているのか背景にあるのは、社会インフラとしての「パートナーシップ制度」の急速な普及です。渋谷区と認定NPO法人虹色ダイバーシティの共同調査によれば、2025年5月31日時点で、同性パートナーシップ制度を導入した自治体は530、人口カバー率は92.5%、登録件数は9,836組に達しました。制度のない県庁所在地・政令指定都市はゼロになり、33都府県が人口カバー率100%を達成しています(数値の出典は末尾に記載)。つまり、自社の従業員の多くが、住んでいる自治体でパートナーシップを公的に証明できる環境になっています。企業が福利厚生で同性パートナーを対象にする際の「本人確認の難しさ」という従来の懸念は、社会の側で解消されつつあるのが現状です。加えて司法の動きも見逃せません。「結婚の自由をすべての人に」訴訟では、2025年3月までに札幌・東京・福岡・名古屋・大阪の5つの高等裁判所が、同性婚を認めない現行法を違憲とする判断を示しました。その後2025年11月に東京高裁の別の裁判部が二審で初の「合憲」判断を示し、現在は6件すべてが最高裁大法廷に回付され、統一判断が待たれています(2026年6月時点)。法整備の方向性をめぐる議論が続くなか、企業が先んじて社内制度を整える意義は高まっています。2. まず押さえる「適用対象の定義」と証明方法最初の論点は、「誰を福利厚生の対象とするか」を定義することです。実務上は、就業規則や慶弔規程の「配偶者」の定義を見直すアプローチが一般的です。たとえば「配偶者(婚姻の届出をしていない事実婚関係にある者および同性のパートナーを含む)」と明記することで、対象範囲を法律婚以外に広げられます。対象を確認する方法としては、自治体のパートナーシップ証明書(受領証)、住民票上の同一世帯であることの記載、両者が署名する申告書(宣誓書)などが用いられます。前述のとおり人口カバー率が9割を超えたため、自治体の証明書を要件の柱に据えやすくなっています。ただし、まだ制度のない自治体に住む従業員もいるため、証明書だけを唯一の条件とせず、住民票や社内申告で補完できる設計にしておくと、適用漏れを防げます。ここで決めるべきは、「異性の事実婚と同性パートナーを同じ基準で扱うか」という整理の方針です。多くの場合、両者を「法律婚に準じる関係」として同一の証明・同一の待遇でそろえると、規程がシンプルになり運用しやすくなります。3. 制度の棚卸し — 何を、どこまで広げるか次に、自社の福利厚生を一覧化し、適用範囲を検討します。職場のLGBTQ+取り組み評価指標「PRIDE指標」(一般社団法人work with Pride)では、登録された同性パートナーがいる従業員向けの人事制度として、複数のカテゴリを評価対象に挙げています。第一に休暇です。結婚休暇、出産・育児休暇(パートナーの子を含む)、家族の看護・介護休暇など。第二に手当です。慶弔(祝い金・見舞金)、出産祝い金、家族手当、住宅手当など。第三に転勤関連で、転勤の帯同や赴任手当。第四にその他の福利厚生で、社宅・寮、ファミリーデー、家族割引、保養施設の利用など。これらに加え、会社独自の遺族年金や団体生命保険の受取人に同性パートナーを指定できるかも評価項目に含まれます。PRIDE指標は2016年に日本で初めての職場LGBTQ+評価指標として策定されました。最新の「PRIDE指標2025」では、2025年11月14日の発表時点で922社が認定されています(応募931社、内訳はゴールド750・シルバー119・ブロンズ53。出典は末尾)。複数の人事制度項目を同性パートナーに適用していることが、評価の柱の一つに位置づけられています。実務では、すべてを一度に変える必要はありません。まずは慶弔休暇・結婚祝い金・慶弔見舞金といった「就業規則の文言変更で対応できるもの」から着手し、次に手当・社宅など金銭・現物給付を伴うものへと段階的に広げる進め方が現実的です。4. 設計時に見落としやすい論点制度を広げる際には、福利厚生の「種類」によって背景の制度が異なる点に注意が必要です。弔慰金や結婚祝い金、慶弔休暇のように社内規程だけで完結するものは、企業の判断で同性パートナーに広げやすい領域です。一方、税法上の扶養控除や社会保険の被扶養者認定は、現行法では法律上の配偶者を前提とする制度であり、企業の規程変更だけでは同等にできない部分が残ります。「自社の裁量で広げられる範囲」と「法制度に紐づく範囲」を切り分けて説明できるようにしておくと、従業員への案内で誤解を生みません。もう一つの論点はプライバシーです。パートナーシップを申告した従業員の情報は、極めてセンシティブな個人情報です。申請の窓口を限定する、人事内でも閲覧範囲を絞る、本人の同意なく所属部署へ共有しないといったアウティング防止の運用ルールを、制度導入とセットで定めることが欠かせません。5. 進め方のステップこれまでの論点を、着手しやすい順に整理します。ステップ1は現状把握です。自社の休暇・手当・転勤・その他福利厚生を洗い出し、「配偶者」を前提にしている制度をリスト化します。ステップ2は対象定義です。就業規則・慶弔規程の「配偶者」の定義に、同性パートナー(および事実婚)を含める文言を加えます。証明方法も同時に決めます。ステップ3は優先順位づけです。規程変更だけで完結する慶弔関連から始め、手当・社宅へ段階的に広げます。法制度に紐づく扶養・社会保険は「現状できる範囲」を明確にします。ステップ4は運用設計です。申請フロー、確認書類、プライバシー保護のルールを定め、相談窓口の担当者にも周知します。ステップ5は周知です。制度ができても、当事者が安心して使えなければ意味がありません。「対象になること」「申請しても不利益がないこと」を、社内に分かりやすく伝えます。弊社は、この一連のプロセスを、規程文言の検討から従業員向けの周知・研修まで一貫してご支援しています。O-DINARY for the Company弊社「O-DINARY」は、企業のLGBTQ+インクルージョン推進をご支援しています。同性パートナーへの福利厚生適用についても、現状の制度棚卸し、就業規則・慶弔規程の文言設計、証明方法とプライバシー保護の運用ルール策定、そして従業員向けの研修・周知まで、貴社の段階に合わせて伴走します。「何から始めればいいか」を一緒に整理するところからで構いません。研修・eラーニング・相談窓口・サーベイと組み合わせた包括的な設計も可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。出典(2026年6月 再確認済み)虹色ダイバーシティ(一次情報) https://nijiirodiversity.jp/9593/nippon.com https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02465/PRIDE JAPAN(アウト・ジャパン) https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2025/06/23.html札幌弁護士会 https://satsuben.or.jp/statement/2025/04/17/921/東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/452087時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2026032500878&g=socwork with Pride(一次情報) https://workwithpride.jp/pride-i/work with Pride(PR TIMES公式) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000120117.html日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA26DUA0W4A720C2000000/