「研修は実施したのですが、その後どうすればいいのか分からなくて」人事・DEI担当の方から、弊社が最もよくいただくご相談のひとつです。年に一度の研修を終えると社内の関心は一段落し、翌年また同じ内容を繰り返す。学びが制度や日常の運用につながらないまま、時間だけが過ぎていきます。この記事では、単発の研修を起点に、方針・制度・相談窓口・継続教育へと展開していく「仕組み化」の考え方を、公的調査や評価指標に紐づけて整理します。1. なぜ「研修だけ」では足りないのか研修は理解の入り口としては有効です。しかし、当事者が職場で直面する困難は、知識の不足だけが原因ではありません。厚生労働省委託「令和6年度 職場におけるダイバーシティ調査・推進事業 報告書」(令和7年3月)によると、性的指向や性自認に関わるハラスメント防止のための取組を行っている企業は全体の71.8%に達しています。一方で、社内に性的マイノリティ当事者の存在を明確に認知している企業は10.2%にとどまります。ハラスメント防止の意識は広がりつつあるものの、当事者が安心して存在を示せる環境には至っていない、という構図が見えてきます。研修で「知る」ことと、当事者が「安心できる」ことの間には、制度や運用という橋が必要です。2. 仕組み化の全体像 — PRIDE指標というフレーム何から手をつければよいか。ひとつの実用的な道しるべが、一般社団法人work with Prideが運営する職場のLGBTQ+評価指標「PRIDE指標」です。PRIDE指標は5つの領域で構成されています。Policy(行動宣言)、Representation(当事者コミュニティ)、Inspiration(啟発活動)、Development(人事制度・プログラム)、Engagement/Empowerment(社会貢献・渉外活動)の5つです。指定項目を満たす数に応じて、5点でゴールド、4点でシルバー、3点でブロンズとして表彰されます(work with Pride「PRIDE指標2025」2025年)。この5領域は、そのまま「仕組み化のチェックリスト」として使えます。研修(Inspiration)は5つのうちのひとつにすぎず、方針(Policy)・制度(Development)・継続的な取組へと広げて初めて全体がそろう、という設計思想がここに表れています。「PRIDE指標2025」では、応募437社・グループ連名を含め総計931社が参加し、ゴールド認定は750社にのぼりました(work with Pride「PRIDE指標2025」2025年)。取り組む企業の袾野は着実に広がっています。3. ステップ1:方針(Policy)を明文化する仕組み化の起点は、会社としての姿勢を言葉にすることです。前掲の厚労省報告書(令和7年3月)では、ハラスメント防止の「取組をしている」企業は7割を超える一方で、性的指向・性自認に関する方針を就業規則等に明文化したり、専用の相談窓口を設けたりしている企業は、現状ごく一部にとどまるとされています。方針の明文化は、担当者個人の善意に依存しない運用の土台になります。就業規則やハラスメント防止規定にSOGI(性的指向・性自認)に関する記載を加えることは、後述する法改正への対応とも直結します。口頭の合意ではなく、文書として残す。これが属人化を防ぎ、人事異動があっても揺らがない仕組みの第一歩です。4. ステップ2:相談窓口と継続教育を「制度」に変える相談窓口を設けている企業がまだ少数にとどまる現状は、裏を返せば、困りごとを抱えた当事者の多くが相談先を持たないまま働いていることを意味します。窓口を設けるだけでなく、「誰が」「どこまで」対応するのかを定め、アウティング(本人の同意なく性的指向・性自認を第三者に暴露すること)を防ぐ情報管理ルールを併せて整えることが重要です。窓口担当者向けの研修は、全社研修とは別に継続して行う必要があります。研修の効果についても、データが示唆を与えてくれます。認定NPO法人虹色ダイバーシティ「niji VOICE 2023」(2023年12月、有効回答2,242人)では、LGBTQに関する施策が多い職場ほど、当事者の心理的安全性が高く、勤続意欲も高い傾向が確認されています。施策がない職場では、トランスジェンダー当事者の42%が心理的安全性が低いと回答しました。つまり、方針・窓口・継続教育といった施策を「数」として積み重ねることが、働きやすさと定着に結びついていく、ということです。研修を一度きりのイベントから、年間計画に組み込まれた継続プログラムへと位置づけ直すことが、仕組み化の核心になります。5. 法改正が後押しする「仕組み化の必然性」2025年の法改正は、仕組み化を「望ましい取組」から「備えるべき体制」へと位置づけを変えました。2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法では、職場におけるカスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が事業主に義務付けられました。施行は公布日から1年6月以内に政令で定める日とされています(政府広報オンライン、2025年)。あわせて、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動やアウティングがパワーハラスメントに該当しうることが、関連する指針の中で示されています。こうした流れを踏まえると、SOGIハラ・アウティングを行ってはならないことを就業規則等に明記し、従業員へ周知することが、法対応としても求められる段階に入っています。方針の明文化や相談体制の整備は、もはや先進的な企業だけの選択肢ではなく、すべての企業が向き合う実務課題になりつつあります。研修で知識を入れ、方針で姿勢を示し、制度で運用を支え、窓口で困りごとを受けとめ、継続教育で更新していく。この一連のサイクルこそが、法改正後の職場に求められる「仕組み」です。O-DINARY for the Company弊社O-DINARYは、LGBTQインクルージョンを単発の研修で終わらせず、方針策定・相談窓口の設計・継続教育までを一気通貫で支援しています。「研修は実施したが次の一手が見えない」「PRIDE指標への対応を検討したい」「法改正に合わせて規定を見直したい」といった段階に応じて、貴社の現在地から無理のない仕組み化をご提案します。研修・eラーニング・サーベイ・相談窓口の設計まで、まずはお気軽にご相談ください。出典(2026年6月 再確認済み)厚生労働省 報告書PDF https://www.mhlw.go.jp/content/001511340.pdfwork with Pride 公式 https://workwithpride.jp/topics/2025prideindex_rainbow/doda PRIDE指標解説 https://doda.jp/challenge/contents/column/218.htmlwork with Pride PRIDE指標 応募要項 https://workwithpride.jp/pride-i/application/niji VOICE 2023 報告書PDF https://nijibridge.jp/wp-content/uploads/2024/03/20240225nijiVoice2023.pdf政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/article/202510/entry-9434.html