「もし、どちらかが倒れたら——病院でちゃんと家族として扱ってもらえるのかな」長く一緒に暮らしてきた同性カップルほど、ふとした瞬間にこんな不安がよぎります。事故や病気、そして万一の死。そのとき、いまの日本の制度はパートナーをどこまで「家族」として認めてくれるのでしょうか。本記事では、法律婚ができないカップルが直面する相続・医療・万一への備えを、任意後見契約・遺言・生命保険の受取人指定という3つの実務から、制度の効力範囲を正確に整理します。1. 前提——いまの日本では、同性パートナーは「法定相続人」になれないまず押さえておきたいのは、現行の民法上、同性パートナーは互いの法定相続人にはならないという事実です。民法が法定相続人として定める「配偶者」とは法律上の婚姻関係にある人を指すため、同性のパートナーは含まれません。自治体のパートナーシップ制度で証明を得ていても、それによって民法上の配偶者になるわけではない点も重要です。パートナーシップ制度は2025年5月末時点で530自治体に広がり、人口カバー率は92.5%に達していますが(渋谷区・認定NPO法人虹色ダイバーシティ共同調査、2025年)、これは法律婚と同じ法的効果を持つものではありません。裁判の流れも知っておく価値があります。「結婚の自由をすべての人に」訴訟では、2024年から2025年にかけて全国の高裁で違憲・違憲状態とする判断が相次ぎました。ただし2025年11月28日の東京高裁判決のように合憲とした例もあり、原告側は上告して、最終的には最高裁大法廷の判断を待つ段階にあります(時事ドットコムほか報道、2025年)。つまり、法整備が実現するまでの「いま」を生きるカップルにとって、自分たちで備えを設計しておくことが、依然として現実的な選択肢になります。2. 万一の「医療・財産管理」に備える——任意後見契約判断能力が十分なうちに、将来に備えてあらかじめ後見人を選んでおく制度が任意後見契約です。認知症や事故などで判断能力が低下したときに、信頼するパートナーへ財産管理や生活・介護に関する手続きを任せられます。ポイントは効力が生じるタイミングです。契約を結んだ時点では効力は発生せず、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した時にはじめて効力が生じます(日本公証人連合会、任意後見契約解説)。また、任意後見契約は必ず公正証書で作成しなければならないと法律で定められています(任意後見契約に関する法律)。本人の意思と判断能力を確実に確認するための要件です。注意すべき制限もあります。任意後見人の職務は代理権にもとづく法律行為が中心で、手術の同意などの医療行為への同意権までは含まれないと一般に解されています。延命措置の判断なども同様です。医療同意の扱いは制度上の課題として残っているため、過度な期待は禁物です。3. 「亡くなった後」に備える——遺言と死後事務委任契約法定相続人になれないパートナーへ財産を残したいときの基本が遺言です。遺言書を作成しておくことで、相続人ではないパートナーに対しても財産を遺す(遺贈する)ことが可能になります。ただし税制面では不利な扱いがあります。同性パートナーは「配偶者および一親等の血族以外」にあたるため、相続税の2割加算の対象となり、算出された税額に20%が上乗せされます(国税庁タックスアンサーNo.4157)。さらに、相続税の配偶者控除、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い額までの軽減はあくまで法律上の配偶者にのみ適用され、同性パートナーには使えません。そして見落としやすいのが死後の手続きです。任意後見契約の効力は本人が生きている間に限られ、葬儀・納骨・各種解約といった死後の事務には効力が及びません。これらをパートナーに託したい場合は、別途「死後事務委任契約」を結んでおくことが検討に値します。死後の事務委任契約は最高裁判決(平成4年9月22日)でも有効性が認められています。葬儀の方式や埋葬方法の指定、死亡届の提出、賃貸住宅の解約・明渡し、公共料金やサービスの精算など、委任できる事務は多岐にわたります(東京弁護士会ほか解説)。4. 「お金」をスムーズに渡す——生命保険の受取人指定遺言と並んで実務的に強いのが、生命保険の死亡保険金受取人にパートナーを指定する方法です。保険金は受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割協議を経ずに直接パートナーへ渡せる点が利点です。近年、保険会社によっては所定の条件のもとで同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定できるようになっています。たとえばアクサ生命は、同性のパートナーなどを受取人として認める場合があると案内しています(アクサ生命、よくあるご質問)。手続きにあたっては、戸籍謄本・同居が確認できる住民票・自治体発行のパートナーシップ証明書の写しなどの提出を求められることがあります。税務上の注意点も押さえておきましょう。法定相続人が受け取る場合に使える「500万円×法定相続人の数」の生命保険金の非課税枠は、相続人ではない同性パートナーには適用されません。前述の2割加算もかかるため、金額設計は慎重に行い、遺言など他の手段との併用を検討することが現実的です。5. 3つの備えは「組み合わせ」で考えるここまで見たとおり、それぞれの制度には守備範囲があります。任意後見契約は生きている間の財産管理・身上監護を、遺言と生命保険は亡くなった後の財産の承継を、死後事務委任契約は葬送などの実務をカバーします。一つの制度ですべてを谄うことはできません。だからこそ、自分たちの状況に合わせて複数を組み合わせ、専門家(公証人・司法書士・税理士・弁護士など)に相談しながら設計することが、いちばん確実な「もしもへの備え」になります。制度は完璧ではありませんが、いまある仕組みを正しく知り、使えるものを丁寧に積み重ねていくこと。それが、大切な人を守る現実的な一歩です。LGBTQ研修・相談なら O-DINARYO-DINARYは、LGBTQ当事者と企業・自治体の双方に向けて、正確な知識にもとづく情報発信・研修・相談支援を行っています。同性カップルのライフプランや、職場でのインクルージョンに関するご相談など、「ふつう(ordinary)」に生きられる社会づくりを、制度と現場の両面からサポートします。まずはお気軽にお問い合わせください。出典(2026年6月 再確認済み)nippon.com「パートナーシップ制度:25年5月時点で人口カバー率9割超す」 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02465/弁護士法人ベリーベスト「同性パートナーがいる場合の4つの相続対策」 https://office.vbest.jp/columns/bequest/g_other/5349/Marriage for All Japan https://www.marriageforall.jp/topics/6070/国税庁タックスアンサー No.4157「相続税額の2割加算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4157.htm国税庁タックスアンサー No.4158「配偶者の税額の軽減」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm国税庁タックスアンサー No.4114「相続人以外が取得した死亡保険金」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm税理士法人チェスター「死後事務委任契約とは」 https://chester-tax.com/encyclopedia/16203.html