「制度はつくった。同性パートナーシップも、相談窓口も、研修も用意した。それなのに、誰も使っていない」人事・DEI担当者の方から、弊社はこうした声をよくお聞きします。せっかく整えた制度が「あるのに使われない」。この状態は、担当者の努力不足ではありません。制度の存在と、それを使える安心感とのあいだに、見えない距離があるからです。本稿では、その距離を生む原因を整理し、制度を「使われるもの」に変えるための鍵となる「心理的安全性」「トップの姿勢」「アライの可視化」について、検証可能なデータをもとに解説します。1. 「制度はあるのに使われない」は、データにも表れている認定NPO法人虹色ダイバーシティが発行した「LGBTQの仕事と暮らし白書2026」では、2022年・2023年・2024年に実施されたアンケート調査(累計6,593名)の3年分のデータを分析しています。同白書によれば、2023年6月に「LGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)」が成立した後も、LGBTQに関する「施策ゼロ」の職場は54.9%(2024年)でした。2022年の57.2%からわずかに改善したものの、依然として半数以上の職場で施策が存在しない状態です。一方で、施策を導入した職場でも、当事者が望む施策(福利厚生での同性パートナーの配偶者扱い、差別の禁止の明文化、トランスジェンダー従業員へのサポートなど)にまでは至っていないケースが多いと指摘されています。つまり、制度の有無以前に「どの制度を」「どう使えるようにするか」という設計と運用の段階で、当事者の実感とのあいだにギャップが生まれているのです。2. 使われない最大の理由は「心理的安全性」の不足制度を使うということは、多くの場合、自分がLGBTQ当事者であることを職場に開示する(あるいは、その可能性を周囲に推測される)という対人的なリスクを伴います。同性パートナーシップ制度を申請する、相談窓口を訪ねる——こうした行動には、「使ったことで不利益を被らないか」という不安がつきまといます。ここで鍵になるのが「心理的安全性(psychological safety)」です。この概念は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に学術誌『Administrative Science Quarterly』で発表した論文で提唱したもので、「チームのメンバーが共有する、対人的なリスクをとっても安全だと信じられる状態」と定義されています。率直に発言したり、助けを求めたり、自分の弱さを見せたりしても、罰せられたり評価を下げられたりしない——そう信じられる環境があってはじめて、人は行動に移せます。前掲の白書でも、施策がわずかに増えている一方で差別的言動はむしろ大幅に増えており、LGBTQ当事者の職場での心理的安全性が低い状況は改善されていないと結論づけています。具体的には、生まれが女性でXジェンダーの回答者の40.9%が「心理的安全性が低い」と回答しています。制度という「箱」をつくっても、それを使える「空気」がなければ、箱は開かれないままなのです。3. 心理的安全性を脅かす「差別的言動」の増加心理的安全性は、職場の日常的な言動によって積み上げられ、また崩されます。白書によれば、「性別を変更して生きることに関するネガティブな発言」を見聞きしているトランスジェンダー当事者は、2022年の37.4%から2024年には47.4%へと、3年という短期間で約10ポイント増加しました。そして、差別的言動の多い職場ほど、トランスジェンダー当事者のメンタルヘルスは悪いと報告されています。制度導入の取り組みが進む一方で、現場の言動が伴っていない。この不一致こそが、当事者に「この会社の制度は、本当に自分を守ってくれるのか」という疑念を抱かせ、制度の利用をためらわせます。施策の整備と並行して、日常のコミュニケーションから差別的言動をなくしていくこと。両輪で進めなければ、制度は機能しません。4. トップの姿勢と「アライの可視化」が空気を変えるでは、心理的安全性のある空気は、どうつくられるのでしょうか。鍵は2つあります。ひとつは、経営トップの明確な姿勢です。LGBTQ+の職場環境づくりを評価する「PRIDE指標」を運営するwork with Prideは、経営者がアライ(理解・支援する人)であることを表明する「企業経営者アライネットワーク Pride1000」を掲げ、2030年までに1,000名規模の経営者の参加を目標としています。トップが「この会社は多様性を尊重する」と自らの言葉で発信することは、現場に「ここでは安全だ」というメッセージを届ける最も強い手段のひとつです。もうひとつが、アライの可視化です。研修を受けた、理解を示すという「個人の内心」は、外から見えません。だからこそ、アライであることをステッカーやバッジ、社内コミュニティなどで「見える化」することに意味があります。当事者は、開示する前に「この職場は安全か」を周囲の様子から読み取っているからです。なお、PRIDE指標2024では、最高評価の「ゴールド」に388社・団体が認定されています。多くの企業が、制度整備だけでなく、こうした可視化や啟発の取り組みへと歩みを進めています。5. 「使われる制度」へ:弊社からの3つの提案以上を踏まえ、弊社は「制度はあるのに使われない」状態を超えるために、次の3点を同時に進めることをご提案します。第一に、心理的安全性を測ること。制度の利用率だけでなく、従業員が「率直に発言できるか」「不利益を恐れず相談できるか」をサーベイで定点観測し、空気の状態を可視化します。第二に、トップが繰り返し語ること。一度の宣言では空気は変わりません。経営層がさまざまな場面で継続的にメッセージを発信し、本気度を示すことが重要です。第三に、アライを見える形にすること。研修で終わらせず、アライであることを表明・可視化する仕組みをつくり、当事者が「ここなら安全だ」と感じられる手がかりを職場に増やします。制度は出発点であって、ゴールではありません。その制度が使われる空気をどう育てるか——そこにこそ、DEI推進の本質があります。O-DINARY for the Company弊社・株式会社LGBTQ Ordinaryは、「制度はあるのに使われない」課題を抱える企業の人事・DEIご担当者さまに向けて、LGBTQ+に関する研修・eラーニング、職場環境サーベイ、相談窓口の設計・運用までを一貫してご支援しています。心理的安全性の現状把握から、トップメッセージの設計、アライ施策の可視化まで、貴社の状況に合わせた実行可能なプランをご提案します。制度を「使われるもの」に変える次の一歩について、まずはお気軽にご相談ください。出典(2026年6月 再確認済み)虹色ダイバーシティ白書2026(PDF原本) https://nijibridge.jp/wp-content/uploads/2026/02/nijiVOICE-whitepaper-2026.pdfe-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC1000000068SAGE Journals(原典) https://journals.sagepub.com/doi/10.2307/2666999work with Pride 公式 Pride1000 https://workwithpride.jp/pride1000/work with Pride プレスリリース(PR Times) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000120117.htmlwork with Pride 公式 PRIDE指標とは https://workwithpride.jp/pride-i/虹色ダイバーシティ公式お知らせ https://nijiirodiversity.jp/11584/