「うちの会社にはLGBTQの社員はいないと思うので、特に対応は考えていません」人事・DEI担当の方とお話ししていると、こうした言葉をいただくことがあります。けれど、これは「いない」のではなく「見えていない」だけかもしれません。本稿では、LGBTQ対応がなぜ福利厚生の一項目ではなく経営課題なのかを、実在の調査データと法制度の動きから整理します。1. 「いない」のではなく「見えていない」——当事者割合という前提株式会社電通グループのLGBTQ+調査2023によると、全国20〜59歳を対象としたスクリーニング調査において、LGBTQ+当事者層の割合は9.7%でした。これは2020年調査の8.9%から微増した数字です。スクリーニング調査は2023年6月14〜19日に57,500人を対象に実施され、続く本調査は6,240人を対象としています。単純計算で、従業員100人の企業であれば約10人が当事者層に該当しうる規模感です。「自社にはいない」という前提そのものを、まず問い直す必要があります。そして重要なのは、その多くが職場で自身のセクシュアリティを開示していない、という点です。見えないからこそ、対応が後回しになる。この構造が問題の出発点です。2. カミングアウトしづらさが生む、見えないコスト同じ電通グループの調査では、「職場や学校などの仲間からカミングアウトされたら、ありのまま受け入れたいと思う」と答えた人が84.6%にのぼりました。受け入れたいという意識は、すでに社会の多数派になっています。一方で、当事者が安心して開示できる職場環境が整っているかは別の問題です。自分の一部を隠しながら働く状態は、心理的安全性を損ない、本来のパフォーマンスを発揮しづらくします。これは目に見えない形で、生産性・エンゲージメント・定着率に影響する見えないコストです。離職という形で表面化したとき、採用・育成にかけた投資はそのまま失われます。3. 採用市場における選ばれる理由LGBTQ対応は、すでに採用競争力の一要素になりつつあります。電通グループの同調査では、LGBTQ+ではない層(非当事者層)のうち、LGBTQ+をサポートする企業で働きたいと考える人が約6割に達しました。条件を問わず働きたい人が17.6%、給与や条件が他社と同等なら働きたい人が41.9%という内訳です。注目すべきは、これがLGBTQ+当事者ではない層、つまりマジョリティ側の意識である点です。企業のLGBTQ+対応が、当事者に限らず幅広い求職者の就業先選びに影響していることを示しています。求職者は、給与や事業内容だけでなく「この会社は多様性をどう扱っているか」を見ています。LGBTQ対応の有無は、採用ブランディングに直結する論点です。4. 評価と信頼の指標——work with Prideの潮流企業のLGBTQ+対応を可視化する指標として、一般社団法人work with Prideが運営する「PRIDE指標」が定着しています。2025年11月14日に発表されたPRIDE指標2025は、節目となる10回目の実施でした。応募はグループ連名を含め総計931社にのぼり、過去最大規模となっています。認定結果は、最高評価のゴールド認定が750社、シルバー認定が119社、ブロンズ認定が53社でした。さらに行政やNPO・学術機関との連携を評価するレインボー認定には38社が認定されています。900社を超える企業がこの指標に取り組んでいるという事実は、LGBTQ対応がもはや先進企業だけの取り組みではなく、標準的な経営指標の一つになりつつあることを示しています。取引先選定やESG評価の文脈でも、こうした外部指標は企業の信頼を測る材料として参照されます。5. 法制度の後押しと、企業に求められる次の一手制度面でも環境は動いています。2023年6月23日には、いわゆるLGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が公布・施行されました。これは差別を禁止する規定を持つ法律ではなく、理解の増進を目的とした理念法です。事業主に対しては、雇用する労働者の理解増進に向けた努力が求められています。法律が罰則を伴わないからこそ、企業がどこまで自主的に踏み込むかで差が生まれます。研修による知識の底上げ、相談窓口の整備、制度面での見直し——これらをどう設計するかが、採用・定着・信頼の三つの観点で企業の競争力を左右します。O-DINARY for the Company弊社O-DINARYは、LGBTQ当事者の視点を起点に、企業のインクルージョン推進を支援しています。・LGBTQ+基礎知識の社内研修・eラーニング教材・職場の実態を可視化するサーベイ・当事者・管理職が利用できる相談窓口の設計「何から始めればよいかわからない」という段階からのご相談を歓迎します。自社の現在地を整理するところから、伴走させていただきます。まずはお気軽にお問い合わせください。出典株式会社電通グループ「LGBTQ+調査2023」(2023年):当事者層割合9.7%(2020年8.9%)、スクリーニング57,500人・本調査6,240人・全国20〜59歳、「ありのまま受け入れたい」84.6%、サポート企業就業意向は非当事者層で18.0%+42.2%=約6割。https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001046.html一般社団法人work with Pride「PRIDE指標2025/レインボー認定」(2025年):応募総計931社、ゴールド750社・シルバー119社・ブロンズ53社、レインボー認定38社、10回目、2025年11月14日発表。https://workwithpride.jp/topics/2025prideindex_rainbow/性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)(2023年):2023年6月23日公布・施行、理念法。https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC1000000068注記:執筆にあたり、職場でのハラスメント経験率について一部の二次媒体に「22.9%」との記載が見られましたが、電通グループの一次発表で確認できなかったため本文には採用していません。職場の困難に関する記述は、確認済みの一次データの範囲にとどめ、定性的に表現しています。